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東京高等裁判所 昭和50年(行コ)12号 判決

控訴人(原告) 堀岡吾朗

被控訴人(被告) 松本達雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は「原判決を取消す。被控訴人は東京都品川区に対し金一〇〇万円を返還せよ。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の事実上・法律上の主張並びに証拠関係は原判決事実摘示と同一であるからこれをここに引用する。

理由

一  当裁判所の判断は左のとおり一部敷衍して説明するほか原判決の理由説示と同一であるからこれをここに引用する(ただし、原判決一四枚目表七行から八行にかけて「同第一八号証の一ないし四、」とあるのを「同第一八号証の一ないし一四、」と訂正する。)。

二  本件条例は右判示のとおり地方自治法二八一条の三第一項の区議会固有の区長選任権を拘束するためにではなく、あくまでも選任権の行使(決議)の参考に供するため、区議会に付与された調査権の裁量の範囲内において地域住民の意向を調査しようとするものであるから、その制定の動機となつた真野稔らの条例制定に関する直接請求(乙第一号証の一・二)の趣旨いかんにかかわらず、控訴人のいうような代表民主制(憲法前文、憲法第九三条)を否定するものでないことは明らかである。もつとも、右区民投票実施の結果区議会は得票多数の区長候補者を区長に選任(都知事の同意を得て)することが多いであろうが、それは区議会が右の投票の結果を、区長選任の決議の際にする自主的判断の一参考資料として利用した結果にすぎないから、それをもつて区民投票に法的拘束力があるということはできない。従つて、本件条例が地方自治法二八一条の三第一項の規定に反して区議会の区長選任権を侵害する違法なものということはできず、もちろん憲法九三条等に違反する点もない。

本件条例三条は、区長候補者を定めるに当り、地方自治法一一〇条二項の規定に基づいて区民投票実施機関としての区長候補者選定に関する特別委員会を設置し、その区民に関する事務を同特別委員会の設置する投票管理委員会に管理させる旨定めているが区議会が自らその内部機関をしてかかる事務に当らしめる旨を条例で定めることは、調査権を放棄するものでなく、違法ではない。殊に本件条例は同時に右区民投票に関する立候補の資格・届出、投票の資格、期日、運営等その実施要領等についても細かく定めており、区議会が行なう調査方法としての区民投票は具体的に特定しているものということができるから、区議会がその調査権を一般的に委員会に委譲した場合に該らず適法であることは言をまたない。

また、本件条例は、区民投票の投票資格をその公示の日において区の選挙人名簿に登録されている者に限定する旨定めており、右の「区の選挙人名簿」が公職選挙法第四章に定める選挙人名簿を予定したものであることは明らかであるが、区民投票の事務を管理する投票管理委員会は、同じ区の選挙管理委員会がその時点において調整・保管する選挙人名簿の登録を利用するだけであつて、登録の資格に関する各選挙人等の身上・犯罪歴等に及んで調査するわけではなく、また、区の選挙管理委員会がそれを知らせる必要もないうえ、右選挙人名簿の登録そのものが職務上の秘密に該る事項と解することもできないから、関係吏員に地方公務員法三四条違反の問題を生ずる余地はないというべく、本件条例にこの点の違法もない。

その他、投票日公示の方式が品川区公告式条例に違反するとの点が本件支出命令を違法ならしめるものでないとする判断も前示引用の原判決のとおりである。

三  よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 室伏壮一郎 横山長 深田源次)

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